ラテン語法学・政治学用語集

レース・プーブリカ(res publica、公共体=公的生活=国家)に関する用語を集めてみました。法律用語が中心です。
aberratio ictus
打撃の錯誤。Aを狙って矢を撃ったがBにあたった場合など。方法の錯誤ともいう。
abusus
濫用。
accidentalia negotii
法律行為の本質的でない部分。反対は「essentialia negotii」(法律行為の本質的な部分)。
actio illicita in causa
原因において許されない行為。相手を侮辱し、激情した相手が攻撃してきたのに対し、正当防衛の攻撃を加えた場合など。
actio libera in causa (a.l.i.c.)
原因において自由な行為。酒を呑み、泥酔状態(無責任)になって人を殺すなどの行為。原因行為での自由意思に責任の根拠を求める。
actus contrarius
反対の行為。法律を改廃する法律など。
accessio, accessionis (f.)
附合。
adoptio, adoptionis (f.)
養子縁組。
bona fide
善意で。「bona fides」の奪格。
bona fides
善意。
boni mores
善良な風俗(良俗)。日本民法90条。ドイツ民法138条1項。
comitas, comitatis (f.)
礼譲。
comitia, comitiorum (n. pl.)
民会。古代ローマの成年男子により構成される合議機関。
comitia centuriata
ケントゥリア民会。軍事団体であるケントゥリア(centuria)を単位として構成された。
comitia curiata
クーリア民会(クリア民会)。氏族団体であるクーリア(curia)を単位として構成された。
comitia tributa
トリブス民会。地域団体であるトリブス(tribus)を単位として構成された。
compensatio, compensationis (f.)
相殺。
concubinatus, concubinatus (m.)
内縁。
conditio, conditionis (f.)
条件。
conditio sine qua non
「あれなければこれなし」の条件。conditioに関係節sine qua nonが係っている。因果関係論における条件説の考え方。
Constitutio Criminalis Carolina (CCC)
カール刑事法典。「カロリーナ刑事法典」と訳されることが多いが、Carolinaは「カールの」という形容詞であり、「カロリーナ」なる人物を指すわけではないので不適切である。1532年カール5世(Karl V.)が制定した刑事訴訟法典。
consuetudo, consuetudinis (f.)
慣習。法的確信(opinio iuris)とともに、慣習法の成立要件とされる。
consul, consulis (m.)
執政官(統領)。古代ローマの最高政務官。任期は1年で2名選出する(同役制)。統帥権を有した。古代ローマの暦年は執政官2名の独立奪格(ablativus absolutus)で表現されるのが通常である。
Corpus Iuris Canonici
カノン法大全。
Corpus Iuris Civilis
市民法大全。東ローマ帝国のユスティニアーヌス皇帝の撰により成立した旧勅法彙纂(Codex Vetus)・50の決定(Quinquaginta Decisiones)・学説彙纂(Digesta)・法学提要(Institutiones)・新勅法彙纂(Codex Repetitae Praelectionis)・新勅法(Novellae)のうち、学説彙纂・法学提要・勅法彙纂・新勅法を総称したものをいう。後世、カノン法大全に対抗してフランスの法学者ディオニュシウス・ゴトフレドゥス(Dionysius Gothofredus)が命名したという。
depositum, depositi (n.)
寄託。
dictator, dictatoris (m.)
独裁官。非常事態に対処するため執政官の一人により緊急に任命される政務官。任期は最長で半年。
domicilium, domicilii (n.)
住所。
donatio, donationis (f.)
贈与。
duplicatio, duplicationis (f.)
再々抗弁。再抗弁(replicatio)に対する抗弁。
erga omnes
すべての人に対して。効果が当事者間に限定されず、対世効をもつ場合に使用される。反対は「inter partes」(当事者間で)。
error, erroris (m.)
錯誤。表示行為と効果意思が一致しない意思表示の類型の一つ。
exceptio, exceptionis (f.)
抗弁。
ex nunc
今から。法律効果が遡及せず、もっぱら将来に向かって効力を生ずる場合(将来効)に使う。反対は「ex tunc」(その時から)。
ex officio
職権により。当事者が主張するかどうかに関係なく、行政庁や裁判官が調査・認定などを行うこと。
ex tunc
その時から。法律効果が遡及する場合(遡及効)に用いる。反対は「ex nunc」(今から)。
forum conveniens
便宜な法廷。「forum non conveniens」の対義語。
forum domicilii
住所地の法廷。被告の普通裁判籍である住所地が法廷地となる。
forum non conveniens
便宜でない法廷。英米法における国際民事手続法の法理で、管轄を有する裁判所であっても、この法理を理由として、訴状が拒否される場合がある。ラテン語である以上、「フォルム・ノーン・コンウェニエーンス」と読むべきであるが、「フォウラム・ノン・コンヴィーニエンス」などと読まれる。
fructus, fructus (m.)
果実。天然果実(fructus naturalis:木の実など)と法定果実(fructus civilis:家賃など)の二つがある。
inter partes
当事者間で。効果が当事者間に限定される場合に使用される。反対は「erga omnes」(対世効)。
ius, iuris (n.)
法、又は、権利。現在においても、ヨーロッパ言語では、イタリア語のdiritto、スペイン語のderecho、フランス語のdroit、ドイツ語のRechtなど、法と権利を同一概念で表すものが多い。
ius aequum
衡平法。
ius civile
市民法。もともとは「ローマ市民の法」という趣旨で、万民法(ius gentium)と対置されていたが、近代に至って民法を指すようになった。フランス語の「droit civil」、ドイツ語の「bürgerliches Recht」はいずれも「ius civile」の直訳である。
ius cogens
強行法(強行法規)。当事者の意思(法律行為)に優先する法。反対は「ius dispositivum」(任意法)。
ius dispositivum
任意法(任意規定)。当事者の意思(法律行為)に劣後する法。反対は「ius cogens」(強行法)。
ius gentium
ローマ法における万民法(ローマ市民と外国人の間、外国人同士の法的争訟に適用される法)。転じて諸国民の法、すなわち国際法。ドイツ語では、現在でも国際法を「諸国民の法」(Völkerrecht)という。
ius privatum
私法。反対は「ius publicum」(公法)。公法と私法は、ウルピアーヌスの利益説により区別される。
ius publicum
公法。反対は「ius privatum」(私法)。公法と私法は、ウルピアーヌスの利益説により区別される。
ius sanguinis
血の法。血統により国籍を付与する法(血統主義)。日本やドイツなどが採用する。反対は「ius soli」(地の法)。
ius soli
地の法。出生により国籍を付与する法(出生地主義)。フランスやアメリカなどが採用する。反対は「ius sanguinis」(血の法)。
iustitia, iustitiae (f.)
正義。
iustitia distributiva
配分的正義。
lex, legis (f.)
法律。
lex fori
法廷地法。国際私法においては、法廷地法の適用範囲が広がれば、最密接関連地法の適用が制限されるという関係にある。伝統的には、訴訟法や公法が法廷地法に連結されてきた。
lex domicilii
住所地法。国際私法上、属人法の伝統的な連結点であったが、その後、大陸法国では本国法主義が優勢となった。英米法国や南米諸国では住所地法主義が優勢。
lex patriae
本国法。国際私法上の概念で、国籍国の法の意味。イタリアのマンチニの貢献もあり、現代の大陸法国においては、属人法の原則的な連結点となっている(本国法主義)。わが国においても本国法主義が原則。
lex rei sitae
所在地法。国際私法上の連結点の一つ。「動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による」(法の適用に関する通則法13条1項)。「前項の規定にかかわらず、同項に規定する権利の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法による」(同条2項)。
magistratus, magistratus (m.)
政務官。ローマの非合議的な政治的・法的官職の総称。
mancipatio, mancipationis (f.)
握取行為。ローマ法における所有権移転のための儀式的行為。
matrimonium, matrimonii (n.)
婚姻。
novatio, novationis (f.)
更改。
numerus clausus
閉じた数。人数制限のこと。現代では、ドイツの大学の入学者人数制限がこう呼ばれる。
occupatio, occupationis (f.)
(無主物)先占。所有権の原始取得の原因の一つ。国際法においては、領土も先占により取得される。
obligatio, obligationis (f.)
債権、又は、債務。債権者(creditor)から見れば債権であり、債務者(debitor)から見れば債務である。
obligatio naturalis
自然債務。訴権は与えられないが、給付保持力がある(弁済は有効であり、非債弁済とはならない)債権のこと。
patria potestas
家父権。ローマの家においては、家長たる父は絶対的な権力を有した。
populus, populi (m.)
人民。
populus Romanus, populi Romani (m.)
ローマ人民。
posessio, posessionis (f.)
占有。
praetor, praetoris (m.)
プラエトル。古代ローマ第二位の政務官。首都ローマに2名置かれたほか、属州(provincia)に置かれた。首都ローマのプラエトルは司法官職として機能し(「法務官」と訳される)、属州のプラエトルは属州の総督として機能した。もっとも、紀元前81年頃に属州総督としてのプラエトルは廃止され、プラエトル全員が司法担当となったため、これ以降のプラエトルは「法務官」と訳して構わない。
praetor peregrinus, praetoris peregrini (m.)
外人担当の法務官。ローマ市における外人(ローマ市民でない者)同士の事件および外人とローマ人の間の事件に対して裁判管轄を有した。
praetor provinciae, praetoris provinciae (m.)
属州総督(属州長官)。ローマにおいては軍事(執政官)と司法(法務官)の権限分化があったが、属州においては軍事と司法の両方の権限が総督に属した。
praetor urbanus, praetoris urbani (m.)
首都担当の法務官。ローマ市におけるローマ市民同士の事件に対して裁判管轄を有した。
quaestor, quaestoris (m.)
財務官。もっとも重要なのは首都担当の財務官(quaestor urbanus)だが、その他にもいろいろな財務官が置かれた。
quaestor urubanus, quaestoris urbani (m.)
首都担当の財務官。
replicatio, replicationis (f.)
再抗弁。抗弁(exceptio)に対する抗弁。
res mancipi
ローマ法において、握取行為(mancipatio)が必要な物。「手中物」とも訳される。農業社会において譲渡に厳格な手続が要求されるもので、典型的には不動産と奴隷。
res nec mancipi
ローマ法において、握取行為(mancipatio)が必要ない物。「非手中物」とも訳される。
reservatio mentalis
心裡留保。心の中で思っていることとは異なることを言うこと。効果意思と表示行為が合致しない意思表示の類型の一つ。
res publica (respublica), rei publicae (reipublicae) (f.)
公共体。公共生活(政治社会)という意味での国家(権力機構としての国家ではない)を指す概念。
senator, senatoris (m.)
元老院議員。
senatus, senatus (m.)
元老院。「senex」(年老いた)からの派生語。
senatus populusque Romanus (S.P.Q.R.)
元老院及びローマ人民。ローマの公共体全体を指す言葉。
simulatio, simulationis (f.)
(通謀)虚偽表示。相手方と示し合わせて真意とは異なる表示行為を行なうこと。効果意思と表示行為が合致しない意思表示の類型の一つ。
solutio, solutionis (f.)
弁済。
status activus
能動的地位。ゲオルク・イェリネックの分類の一つ。国家に対して能動的にはたらきかける地位。参政権など。
status negativus
消極的地位。ゲオルク・イェリネックの分類の一つ。国家の介入を否定する地位で、自由権のこと。
status passivus
受動的地位。ゲオルク・イェリネックの分類の一つ。国家の行為を受忍する地位で、義務のこと。
status positivus
積極的地位。ゲオルク・イェリネックの分類の一つ。国家に対して給付を請求する地位で、社会権など。
stipulatio, stipulationis (f.)
問答契約。
traditio, traditionis (f.)
引渡。
tribunus plebis, tribuni plebis (m.)
護民官。平民(plebs)の利益を代表する政務官。紀元前494年に設置された。神聖不可侵(sacrosanctus)とされた。
ultra vires
権限踰越の。ultraは「~を越えて」という意味の前置詞(対格支配)で、viresはvisの複数対格。法人について権限踰越の行為は無効であるという法理は、イギリス法で成立した法理であるが、穂積陳重によりわが民法典にも採用された(現民法43条)。しかし、会社が柔軟な行為を行う必要がある資本主義経済には適さないため、学説によりこの条文を空文化する努力がなされた。今日では、国際組織の権限論の文脈でも使用される。
voluntas, voluntatis (f.)
意思。